「うちに来ない?」と社員が言える会社をつくるまでーー運送会社社長の泥臭い挑戦|常南運送 渡辺知希さん

2024年問題を契機に、今なお深刻な人手不足に揺れる運送業界。離職者が増え、新たな人材も集まらないと嘆く経営者が多い中、茨城県石岡市の常南運送株式会社では、社員が自ら友人を紹介してくれるという現象が起きている。

なぜ、こんな会社が生まれたのか。その答えは意外にも、渡辺さんが「教えてください」と社員に言い続けた日々にある。

DOITER

代表取締役 渡辺知希さん


常南運送株式会社

謙虚さの原点

渡辺さんが家業に入ったのは30代のことだ。父親が立ち上げた運送会社に、2代目として入社した。渡辺さんは運送業の素人だった。前職は医薬品卸売会社の営業職。埼玉でルートセールスをしていた。

埼玉での営業時代、渡辺さんは”売れる営業マン”だった。実績を積み、自信は大きくなっていった。いわゆる天狗になっていたのかもしれない。鳴り物入りで茨城に転属。しかし思うように売れず、顧客や会社のせいにしていた時期もあった。

転属から2年経ち、退職を決意した頃、世話になった先輩に言われた一言が刺さった。
「渡辺くんね、謙虚さっていうのは持ってた方がいいんだわ」

腹が立つようでいて、しかし深く心に刺さった。自分では気づいていなかったが、周りはずっと見ていたのだ。言い返す言葉が、出てこなかった。謙虚さを失い、天狗になって突っ走っていた営業マン時代の最後の2年間を、渡辺さんは今でもこう振り返る。

「もう本当にあの2年間というのは、今思い出しても恥ずかしくなる。当時の先輩たちに謝りたいな、っていうぐらい」だからこそ、家業に入る時、渡辺さんは決めていた。今度は違うスタンスで行くと。

「教えてください」と言い続けた

しかし現実は厳しかった。トラックの積み方も、荷物の縛り方も、ドライバーの仕事も、何一つわからない。まだ社長ではなかった、2代目として入ったばかりの渡辺さんには、従業員であるドライバーたちの視線がこう言っているように感じた。「どうせ親父に拾ってもらったんだろう」と。

それでも渡辺さんは、毎朝、積み込み現場に足を運んだ。手には缶コーヒー。ドライバー一人ひとりに声をかけた。「これはどうやるんですか」
「教えてください」

トップセールスとして高いプライドを持つ男が、今は教わる側だった。みんなシャイで、最初はなかなか話してくれなかった。それでも続けた。

事務所にみんなが揃う時間は少ない。長距離ドライバーはトラックの寝台スペースで夜を明かすことも多い。朝、そこから降りてきたドライバーに声をかける。帰庫した夜、一服している時間を見計らって話しかける。積み込みの現場で、荷物の縛り方を教えてもらう。前職なら考えられない光景だった。プライドを胸に成果で自分を証明してきた男が、「教えてください」と頭を下げる毎日になっていた。

「認められたい」という気持ちは、前職の頃と変わっていなかった。でも、その動かし方が変わっていた。自分の成果を見せつけるのではなく、相手のところへ行く。承認を求めるのではなく、承認を与えに行く。

泥臭さが会社を変えた

現場でドライバーたちとの信頼を少しずつ積み上げながら、現場を知るからこそ見えてきた会社の問題に、渡辺さんは向き合い続けた。

まず取り組んだのは、反発を覚悟の上での改革だった。事故時の安全管理と社員保護のために、業界でもまだ珍しい時代に、ドラレコの全車導入を決めた。以前、自社のドライバーに過失はほとんどないにも関わらず、証拠がないため立証できず、ドライバーを守れなかった事故が発生していた。

当時トラックにドラレコをつける会社は珍しく、ドライバーからは「車内を見られるのが嫌だ」と反発があった。それでも渡辺さんは「みんなを守るためのお守りだから」と丁寧に説明し、導入を実行した。

ドライバーの第一印象を変えることも必要だった。当時は髪型に制限は無く、髭やパーマ・茶髪は当たり前だった。異業種から来た渡辺さんは違和感を覚えた。

「ドライバーが見た目で損をしているのではないか。運送業界で当たり前でも、荷主からしたら怖く、親しみにくいと感じる。だとしたら勿体無いと思ったんです。みんな真面目で誠実に働いている。それが相手に伝わるようにしたいと思いました」

清潔感のある髪型・服装に統一し、トラックのカラーリングも変えた。ピカピカのメッキパーツ、いわゆるデコトラを廃止して、シンプルな2色デザインへ統一した。さらに、ドライバーには一人ひとり名刺を用意し、外出先で名刺交換ができるようにした。運送会社では、ドライバーが名刺を持つことは少ない。だが、顧客からしたら挨拶をしたいシーンはある。

全ては取引先・荷主からの印象を意識してのこと。一部のドライバーからは反発もあったが、ドライバー自身も荷主と円滑なコミュニケーションが取れることで、仕事が楽しくなるのではないかと信じて実行した。

もう一方で取り組んだのは、社員の声を一つひとつ拾い上げることだった。月に一度の全社ミーティングでは、渡辺さんが席を外してグループディスカッションを実施する。

「こんな会社だったらいい」「どうしたらストレスが溜まらないか」を、社員だけで話し合ってもらう。出てきた要望の中で、応えられるものは改善する。駐車場が狭いと言われれば、隣の土地を借りる交渉を始める。スポーツジムを使いたいと言われれば、地元で契約できる場所を探す。

派手さはない。だが渡辺さんは逃げずに、一つずつ改善を積み重ねていった。「社員にずっと長くいてほしいんですよ。それだけなんですよね」と渡辺さんは言う。

「だから、長期的に社員のためになると思う改革は、反対があってもやると決めてます」

社員が友達を連れてくる会社

社員が採用候補者として友達を連れてくる会社は、こうしてできた。華やかな経営改革ではない。業界を揺るがすイノベーションでもない。渡辺さんは現場で缶コーヒーを持ち、「教えてください」と言い続けるところからスタートした。その泥臭い積み重ねが、今の常南運送をつくった。

社員への不満を口にする前に、社長自らが、どれだけ泥臭く現場を知ろうと動いただろうか。取材の最後、渡辺さんは噛み締めるように、冒頭と同じ言葉を繰り返した。

「うちの社員が、友達を連れてきてくれたんですよ……嫌じゃないってことだから。それが一番嬉しい」照れくさそうに笑いながら、でもどこか安堵しているような表情だった。

社員が友達を連れてくる会社は、社長の泥臭さから生まれたのだ。

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