任せたら全てうまくいった。エムテックの自走人材の増やし方


茨城県の金属加工会社・エムテックの社長である松木さんは、新規事業のエビ陸上養殖にほぼつきっきりだ。本業の製造業は社員に任せ、朝礼にも出席しない。それでも会社は問題なく回り、有給取得率は88%と地区内では日立製作所に次ぐ高さを誇り、さらに業績も上がり、社員の給与も上がり続けているという。松木さん自身は「今が一番楽しい」と話している。

しかし10年前の松木さんは、まるで逆だった。仕事を全部自分で抱え込み、社員には「なんで言うことを聞いてくれないんだ」と苛立つ日々を送っていた。「いつも眉間にしわを寄せて歩いていた」と本人が振り返るこの時期を、松木さんはどう抜け出し、どう今の成功を手に入れたのか。

長年をかけて松木さんが気づいた、自走人材を育成する秘訣に迫る。


“人に任せる”ということ

仕事を人に任せた方が良い。そんなことを良く聞く。ここで疑問なのが、どこまで任せるか?どのように任せるか?そして誰に任せるかだ。松木さんはこう答える。

①責任と権限をセットで渡す

「売上100万円を作れ」と数字の責任だけ渡し、やり方は逐一自分に確認させる経営者は多い。それでは、いつまで経っても人は自分の頭で判断しなくなる。松木さんはやり方を全て任せる。「確認はしないから、全部自分で責任持ってやってみて」と、責任と権限を同時に手放すのだ。任せられた方は、自分の後ろに責任者がいないから、必死になって仕事を全うしようとする。ここに主体性が生まれるのだ。
②失敗を許容する

任せることには当然リスクが伴う。失敗したらどうするのか、と不安になる経営者も多いだろう。松木さんの答えは明快だ。ミスは許容する。挑戦に失敗はつきもので、そこから学ぶこともある。自分が客先に謝りに行くし、社員と一緒に、次はどうするかを考える。その覚悟を持っている。
③まず任せる

「任せられる人がいない」という声もよく聞くが、松木さんは、まず任せることを優先してきた。無理やり任せてうまくいったケースは多い一方、自分で考えられず、ついてこられない社員もいた。そうした社員にはフォローするが、実際に辞めてしまったこともあった。結果として残ったのは、自走できる人材だけだ。生産性は上がり、社員全員の給与も上がり続けている。退職が無いよう、最大限のフォローはするが、過度に退職を怖がらず、まず任せてみることが大事だと考えている。

人の育ち方

松木さんはこう話す。

「俺、人は育てられない。エビは育てられるけど」

松木さんは、人を育てるという表現を“おこがましい”と考えている。経営者や上司が誰かを”育てる”のではなく、自走せざるを得ない環境をつくることで、人は自らの力で育っていく。経営者の仕事は、その環境を用意することだけ。この哲学があるからだ。では、その環境はどのように作られるのか。

①任せると決めたら完全に任せる

以前は自ら朝礼に出て、口を出していた松木さん。ある時、会社の成長を一番邪魔しているのは自分だと気づいた。経営者の機嫌や考え方は、良くも悪くも組織全体に伝染する。眉間にしわを寄せてイライラしている経営者なら、いない方がいい。そう考えた松木さんは、朝礼に出るのをやめ、現場への介入もやめ、全て社員に任せた。すると、自ら創意工夫する人が増え、売上は上がったのだ。
②自信をつけること

次に大事なのが、自信をつけさせることだ。まずは一つの分野を任せ、「この作業ならこの人が誰よりも詳しい」という状態を作る。自分の工夫で結果を出して初めて自信が生まれる。人から指示されてやったことは、自信にはならない。「最初の自信があって、それで横と連携しだすんで」と松木さんは言う。自信を持った社員は、自分から周囲と連携を取り始める。協調性は、自信のあとにしか生まれない。
③褒めること

そして最後に、褒めることだ。「人が成長する瞬間は、成果が出た時のみ」と松木さんは言う。だから、小さな成功体験を沢山積んでもらう。成果が出たら褒めるのはもちろん、成果が出ていなくてもプロセスを褒め、「頑張れ」「大丈夫だ」と励ます。松木さん自身は、叱られながら反骨精神で育ってきた世代だ。「めちゃくちゃやられて反発精神で頑張ってきたけど、やっぱそうじゃないよね」あの育て方は間違っていたと、今は思っている。

自走人材を増やしたいなら

責任と権限をセットで渡し、失敗を許し、最後まで任せ、自信をつけさせ、褒める。特別なことは何もしていない。それでも、これらを愚直に積み重ねてきたことで、エムテックには自走する社員が残った。だからこそ松木さんは今、本業を離れて、エビの水槽の前に立っていられる。

示唆深いのは、松木さんは最初からこれが出来たわけではないことだ。つまり、努力と工夫次第で、誰にでもできる可能性がある。

松木さんの遊ぶように仕事をする背中が、「きっとできるよ。やってごらん?」と語りかけているようだった。

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