技術一筋の理学療法士が、なぜスタッフに慕われる経営者になれたのか|Total Body Make 唐澤幹男

理学療法士として10年近く、患者の体と向き合い続けた。土日も講習会に通い、技術を磨くことだけに一生懸命だった。そんな男が今、月に一度、スタッフのもとを訪れ、ただ話を聞きに行く。FC整体院は全国70店舗の中で売上1〜2位。何が彼を変えたのか。

DOITER

代表取締役 唐澤幹男さん


株式会社Total Body Make

技術を極め続けた10年

「他の先輩が治せるのに、自分が治せないことが嫌でした」

唐澤さんが理学療法士を志したのは、高校時代にバスケットボールで怪我をし、トレーナーへの憧れを持ったことがきっかけだった。19歳で山梨から茨城へ単身移住し、茨城県立医療大学を卒業後、筑波にある病院に就職した。原動力は、悔しさだった。

「患者さんを良くできなかった経験が結構大きいんですよ」

先輩なら治せるのに、自分には治せない——その差が、どうしても許せなかった。お客さんに「ありがとう」と言ってもらえることが嬉しかった分、良くならなかった時の悔しさも大きかった。

その悔しさが、唐澤さんを駆り立てた。平日は患者と向き合い、土日は全国の勉強会へ。大学で学んだことだけでは立ち打ちできない現実と向き合いながら、技術を磨き続けた。それほどまでに、技術を極めることへの執着が、人への興味を上回っていた。

やがて唐澤さんは、管理職という壁にぶつかる。昇進すれば現場を離れ、会議やミーティングが増える。患者と向き合う時間が奪われ、自分の技術を磨くことに専念できなくなる。それほどまでに周囲の人への関心よりも、技術の追求を優先していた唐澤さんにとって、その変化は受け入れがたいものだった。そして2015年、独立した。

経営者になって、壁にぶつかった

自分の腕一本でやってきた唐澤さんに、ある転機が訪れた。病院時代の後輩から、FC整体院のオーナー募集の話を聞いた。

「セブンイレブンのオーナーみたいに、イエスかノーを言うだけでいいんだろうと思っていたんです」

気軽な気持ちだった。FCだから、経営者がそこまで大変なものだとは思っていなかった。自分の得意な技術と、FCの仕組みを組み合わせれば、うまくいくはずだと。しかし、蓋を開けたら全然違った。最初のスタッフが半年で辞めた。

「最初は本当に全然お店にも行かなくて、本人たちとも話せなかったんですよ」

マネジメントは苦手だった。どうしていいかわからなかった。それでも、ある事実が唐澤さんを動かした。

「僕一人が治せる数より、スタッフが13人いれば、彼らが治せる人の方が時間も広くなっていくし、お金も稼げる」

そっちの方が大事だと気づいた。ビジョンを達成するためには、人を動かすしかない。苦手でも、やってみよう——そう決めた。

「しょうもない話を聞きに行くだけ」を始めた

始めたのは、特別なことではなかった。月に1回、必ず店舗へ行き、40分から1時間、スタッフと話す。

「いつでも電話かけてこいって言ってるんで」と伝えた。「最近どう?彼女は?」——雑談レベルでいい。膝を折って、目線を合わせる。ただそれだけだ。「本当にしょうもない話を聞きに行くだけなんですけど」と唐澤さんは笑う。

もちろん技術の育成や研修も行っている。しかし、意識的に取り組んで、かつこれで変わったと実感しているのは、スタッフとのコミュニケーション量と、スタッフの気持ちを理解することだった。スタッフは「言ったこと」ではなく、「やったこと」を見ている。オーナーが実際に来てくれた、話を聞いてくれた——その事実が、スタッフのモチベーションを動かす。ただ、相手の状況を知ろうとすること。今、何に関心があるのか。プライベートは何をしているのか。モチベーションの源泉は何か——。それだけでいい。

「オーナーだからやらなくてもいいんですよ。でも、やった方が絶対に目標を達成できると思う」

大変だが、続けた。

人を気にかけるだけで、会社はブレイクする

FC全国70店舗の中で、唐澤さんの店舗群は売上1〜2位になった。これは快挙だ。スタッフが「来てよかった、楽しい」と言うようになった。自発的に考え、動くようになった。

「10年前の自分なら絶対こんなことやらなかった」と唐澤さんは言う。

「マネジメントの楽しさを覚えてきてはおります」苦手だと思っていた。でも、ビジョンのためにやってみたら、いつの間にか楽しくなっていた。「なりたい自分になるを応援する——今、そのお客さんはスタッフです」スタッフが成長してくれて、なりたい自分に近づいた瞬間が、最高に幸せだと唐澤さんは言う。

人を気にかけるだけで、会社は変わる。それだけのことだった。事業は人がやる以上、ロジックだけでは動かない。単純だが、一番大切なことかもしれない。

関連記事