記事のPoint
- 継ぐ気のなかった家業。ある日突然「コロンビアの農園に行ってこい」と送り出され、横領やゲリラの被害に翻弄された海外経験からすべてが始まった
- 言葉が通じなくても現地に飛び込み、審査員の会場に「混ぜてください」と押しかける。しがらみを嫌い、行動で信頼を勝ち取ってきたスタイル
- 駅ナカ出店の失敗と成功を繰り返しながら全国15店舗へ。今は「自分がいなくても続く会社」と、幸せが長く続く食文化づくりを目指す
茨城県ひたちなか市。1969年創業の喫茶店から始まった「サザコーヒー」は、いまやコロンビアに自社農園を持ち、東京駅前KITTE丸の内店をはじめ全国15店舗を展開する企業へと成長した。
その2代目である鈴木太郎さんは、家業を継ぐつもりのなかった青年時代から、コロンビアでの想像を超える苦労を経て、独自の経営スタイルを築いてきた。

代表取締役社長 鈴木太郎さん
茨城県ひたちなか市出身。東京農業大学で果樹園芸を学び、卒業後にサザコーヒーへ入社。父の代からコロンビアに開設されていた自社農園の管理を任され、南米コーヒー生産者連合会でのインターンを経てコーヒーの世界に深く入り込んでいく。十五代将軍、徳川慶喜の子孫との出会いから生まれた「将軍珈琲」で東京進出を果たし、現在は50代で筑波大学大学院にも在籍しながら、コーヒーの焙煎・保存技術を研究している。

株式会社サザコーヒー
1969年、茨城県ひたちなか市で喫茶店として創業。2026年8月現在は、東京駅前KITTE丸の内店、JR品川駅・新橋駅・大宮駅などの駅ナカ店舗を含め、茨城県内外に15店舗を展開する。1998年からコロンビアのカウカ県に自社農園を保有し、高級品種「ゲイシャ」の栽培・育種・研究にも力を入れている。
継ぐ気のなかった家業、突然のコロンビア行き

もともと植物や農業が好きで、家業のコーヒー事業を継ぐつもりはなかったという鈴木さん。転機は、父親がある日突然「コロンビアにコーヒー農園を買ったから、太郎、行ってこい」と告げたことだった。
右も左もわからないまま現地に渡ると、待っていたのは農園の管理人による使い込みや、ゲリラによる豆の盗難といった想像もしていなかったトラブルの数々だった。
国内では、地元・水戸駅への出店を持ちかけても相手にされず、断られ続けた時期があった。
現地に飛び込み、しがらみを飛び越える

それでも鈴木さんは、現地に飛び込み続けることをやめなかった。コーヒー生産者連合会の品質管理部門でインターンをしながら、午前中は焙煎、午後は200杯ものカッピング(品質評価)を繰り返す日々を送り、豆の良し悪しを見極める目を養っていった。
コーヒーの国際品評会では、審査員に空きが出ると知るやいなや現地に押しかけて「混ぜてください」と交渉し、審査員としての経験を積んでいった。招待メールへの返信を待たず、直接現地に足を運んで信頼を得ることも一度や二度ではなかったという。
帰国後には、徳川慶喜の子孫・徳川慶朝氏(徳川宗家別家)と出会い、大政奉還前に徳川家が飲んだとされるコーヒーを再現した「将軍珈琲」を開発。日本橋三越本店でのプロモーションをきっかけに、サザコーヒーは東京進出の足がかりをつかんだ。
その後もJR品川駅、新橋駅、大宮駅など、駅ナカという厳しい商業環境への出店に挑み続けた。うまくいかず撤退や仕切り直しを迫られたこともあったが、諦めずに機会をうかがい続けた。
コロンビアの農園から、全国15店舗へ

地道な挑戦は、着実に形になっていった。コロンビアの自社農園は現在25ヘクタール、8万本のコーヒーの木を持つまでに拡大し、高級品種「ゲイシャ」の栽培では国内の品評会で優勝も果たした。
将軍珈琲をきっかけにした東京進出は、駅ナカ店舗の拡大へとつながり、現在は品川・新橋・大宮・東京駅前(KITTE丸の内)など首都圏を含む15店舗を展開するまでに成長した。
自身が育てたバリスタが世界大会で結果を残したり、共同研究を行う筑波大学の中に専用店舗を構えたりと、コーヒー1杯から広がった挑戦は、教育や研究の分野にまで裾野を広げている。
自分がいなくても続く、幸せな文化をつくりたい

鈴木さんが今も大切にしているのは、「しがらみをつくらない」という姿勢だ。従業員がやりたいと言ったことは基本的に止めず、失敗しても再挑戦を後押しする。優れた人材が育てば、自分が表に出る必要はないと考えており、実際に自分よりも若いスタッフたちが買い付けや審査の現場を担うようになってきている。
今後目指すのは、「誰が作った豆か、誰が育てた米かがわかる」ような、ストーリーのある美味しいものを、長く出し続けられる体制をつくることだという。自分がいなくても回り続ける会社、そして関わる人みんなが幸せに長く続けられる文化をつくること。それが、しがらみを嫌い、行動し続けてきた鈴木さんが見据える次のゴールだ。
編集後記
鈴木さんは、自身の好奇心と「面白い」という価値基準に従って行動する経営者だと感じました。常識に捉われない圧倒的な行動力と、人に頼ることを厭わない姿勢を強みに、面白いと思ったらまずやってみる。それも、圧倒的な行動量で。その行動の中には失敗もあるかもしれませんが、数をこなすので、結果として早く成功に辿り着きます。そこには、失敗を許容する力と、面白いと思ったことは、素直に面白いと言っていい!という哲学があるように見えました。「しのごの言わず、面白い!と思ったらまずやってみろ」という姿勢が、本当に素敵な生き方だなと思いました。(編集部・須貝)
