記事のPoint
- 住友商事や上場企業での経験を経て、祖父が創立した学校法人八文字学園へ。創立70周年という節目で経営改革の中核を担う。
- カリキュラム刷新、企業との連携強化、評価制度の構築を進め、「学生ファースト」を軸とした組織づくりを推進。
- 「東京に行かなければ良い教育は受けられない」という固定観念を覆し、地方から日本の専門教育を進化させることを目指す。
茨城県水戸市から、日本の専門教育を変える
茨城県水戸市。1956年創立の学校法人八文字学園は、水戸ビジネス&ホスピタリティ専門学校、水戸デジタル専門学校、水戸自動車大学校、水戸ビューティカレッジ、水戸看護専門学校の5校を運営し、2026年に創立70周年を迎えた。地域を代表する総合専門学校グループとして、これまで約2万人の卒業生を社会へ送り出してきた。
約1年前に副理事長へ就任した八文字智宏さんは、評価制度の構築や教育改革、企業との連携強化など、学園全体の変革を推進している。
「少子化だから学校を縮小するのではなく、地方だからこそ新しい教育を生み出せる。」
その考えのもと、70年の歴史を持つ学園の新たな挑戦が始まっている。

副理事長 八文字智宏さん
茨城県水戸市出身。中学時代にアメリカへ渡り、高校卒業までニューヨークで過ごす。帰国後は総合商社・住友商事に入社し、航空機や船舶部門の財務戦略に携わったのち、東証グロース市場に上場していた再生医療企業のCFO補佐も務めた。約1年前に家業である学校法人八文字学園に戻り、現在は経営の全権を委ねられて改革を進めている。

学校法人八文字学園
1956年、茨城県水戸市に創立。水戸経理専門学校、水戸電子専門学校、水戸自動車大学校、水戸ビューティカレッジ、水戸看護専門学校の5つの専門学校を運営する、地域屈指の総合学園。2026年に創立70周年を迎える。
「茨城に戻るつもりはなかった」──故郷で挑んだ教育改革

八文字さんは、もともと茨城に戻るつもりはなかったという。
中学時代からアメリカ・ニューヨークで学び、帰国後は住友商事へ入社。航空機や船舶事業、財務戦略に携わった後、現在東証一部の上場企業でCFO補佐を務め、自ら会社を立ち上げるなど、民間企業でキャリアを築いてきた。
転機となったのは、祖父が創立した学校法人八文字学園が、創立70周年という大きな節目を迎えるのを前に、その先の100年を見据えた経営を考えるようになったことだった。
「この学園を次の時代へどう発展させていくのか。」
その問いに向き合う中で、自ら改革の先頭に立つことを決意し、故郷・水戸へ戻った。
最初に向き合ったのは、「制度」ではなく「組織文化」
学園へ戻り、まず感じたのは、教職員一人ひとりの努力が適切に評価される仕組みや、継続的なフィードバックの文化が十分に整備されていなかったことだった。
教職員同士の関係性は良好だった一方で、成果や成長について率直に話し合う機会は限られ、新しい挑戦を後押しする制度も発展途上だった。
「制度だけを変えても、組織は変わらない。」
そう考えた八文字さんは、まず組織文化の改革に着手した。
学生ファーストを軸に、組織をつくり直す

最初に取り組んだのは、評価制度の構築だった。
外資系企業出身の校長や人事責任者と議論を重ね、「学生第一の行動ができているか」「成果に責任を持てているか」を軸とした評価制度を整備。同時に、ほぼすべての教職員との1on1を実施し、一方的に指示を出すのではなく、現場の声を聞きながら課題を整理し、ともに改善策を考える対話を積み重ねた。
フィードバックが日常となる組織づくりを進めることで、挑戦を歓迎する文化が少しずつ根づき始めているという。
教育も、社会に合わせて進化させる
改革は組織だけではない。教育そのものも大きく見直した。
IT・デジタル分野では、資格取得を中心とした教育から、AIプログラミングやゲーム開発、アニメーション制作、生成AIの活用までを学ぶ実践型カリキュラムへ刷新。AI時代に求められる実践力を備えた人材の育成を進めている。
自動車分野では、企業が学費の一部を支援する奨学金制度を整備し、業界の人材不足と学生の学費負担という二つの社会課題の解決を目指す。
美容分野では、企業との連携によるコンテストへの挑戦や実践教育を拡充するなど、各分野で産学連携を強化。
産業とともに実学を通し、人材を育てる、新しい専門学校のあり方を追求している。
改革の成果は、数字にも表れ始めた

こうした取り組みは、着実に成果として表れ始めている。
入学者数は前年を上回り、オープンキャンパスへの参加者数も過去最高水準で推移している。教職員採用でも、「面白そうな学校だと聞いた」と紹介を通じた応募が増え、以前は採用に苦労していた職種にも多くの応募が集まるようになった。
数字だけではない。年齢や経験年数に関係なく意見を出し合い、挑戦を歓迎する組織風土が少しずつ醸成されていることも、大きな変化の一つだ。
地方から、日本の専門教育を変えていく

八文字さんが目指しているのは、ただ学生数を増やすことだけではない。
「東京に行かなければ良い教育は受けられない。」
そんな固定観念を変えることだ。
地方にいながら世界水準の専門教育を受けられる環境を整え、地域企業や行政、海外の教育機関とも連携しながら、新しい専門学校のあり方を創り上げていく。
「少子化は避けられません。しかし、一人ひとりが生み出す価値を高めることはできます。教育には、その可能性があります。」
創立70周年を迎えた学校法人八文字学園は、次の100年を見据え、地方から日本の専門教育を進化させる挑戦を続けている。
編集後記
取材で印象に残ったのは、生い立ちのお話でした。嫌いな授業でも机に座って我慢するのが嫌で、「このままだと自分が嫌いになりそうだ」と中学を飛び出し、アメリカでの留学生活を送ることになった八文字さん。アメリカの学校では、「やりたくないことはやらなくていい、得意なことを伸ばせばいい」というスタイルが主流。自分の強みを磨くことで自信を取り戻したという経験をしました。その原体験こそが、今の経営にも生きているように感じました。財務戦略という得意分野を活かす一方で、評価制度を作る際には多くの職員と一対一で向き合い、声を聞きながら課題を見つけていったという姿勢。得意なことで戦うと同時に、違いを認め合う姿勢があるからこそ、一人ひとりの声に耳を傾けられたのだと思います。それこそが、会社を伸ばす人が持ち合わせているスタンスなんだと、八文字さんから学びました。(編集部・須貝)
