面白い仕事は自走を生む──新卒を店の社長にする理由

力こぶホールディングス沼崎社長、店舗とマスコットキャラ

一緒に働く人が良いこと、職場環境を整えることについては前編で紹介した。後編では、仕事へのやりがいについて深掘りする。社員のやりがいを最大化するため、力こぶホールディングスでは、逆ピラミッド型のキャリア設計を目指している。

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力こぶホールディングス 沼崎周平

代表取締役社長 沼崎周平


力こぶホールディングス株式会社

自走人材の究極のやりがいは経営だ

仕事のどこにやりがいを感じるかは、人によって様々だ。しかし、やりがいの核は“面白さ”というのは、共通しているのではないだろうか。つまり、好きに触れるほどやりがいを感じやすい。

好きな仕事もまた、人によって様々だ。指示された内容をきっちり実行するのが好きな人。やることを自分で決めたい人。高度経済成長期を経た現代の日本企業では、指示に強い人材は活かされやすい。一方自分で決める人材の活用はまだ細い。

沼崎さんはこう語る。

「自社で育成してきた、自分で考えて意思決定できる人材=自走人材は、究極的に、関心のある領域で、好きな業務をし、裁量を増やすと、やりがいを感じる」

自走を最大化する答えが経営。本人の興味に合わせ、機会を開く。それに、沼崎さん自身も経営が好きだ。この面白さを社員にも伝えたい。

新卒から店の社長に──3年で商売を身につける

経営の門戸を広げるために、沼崎さんは様々な施策を始めた。

そのひとつが、新卒入社1年目の社員に、クリーニング店の店舗経営を任せることだ。損益計算書、貸借対照表の見方から、在庫管理、販促内容、人のマネジメントまで、メンターに相談しながら自走していく。

3年もやると、立派な経営者に育つ。大手企業では中々得られない、実践的な経営経験が身に付く。これは経営者の道を選ばなかったとしても、多くの仕事を進める上で相当な経験値となる。

この経験を活かして、自社の経営層を目指すのはもちろん、自分で起業する選択肢も取れる。特に、地域に根差したC向けのサービスと親和性は高く、応用が利きやすい。実際、現場で鍛えた卒業生は、洋服や飲食で店を構えた。小さな灯が、街の明かりを増やす。

それに、商才のある子どもを地方に増やしたかった。20代の採用・育成を通じて気づいたことがある。それは、儲ける事に対して、変な罪悪感を持つ人が多いということだ。この価値観を変えるには時間がかかった。

一方、儲ける事を良しとする価値観の持ち主は、圧倒的に自営業の家庭で育った人が多かった。その人達は商才を発揮し、店舗の売上をより伸ばしていった。この経験から、経営者に育てられた子供を増やしたいと考えた。

子供の頃から商売を肌で感じてもらう。そのために、まずは地域に経営者を増やしたいという。長期的に見ると、それが地域のためになると信じて。

起業の扉は常時開放

さらに、事業を起こしたい社員に、起業以外の選択肢も用意した。それが、力こぶホールディングスの存在だ。社員が立案した事業計画が通れば、HD出資でグループ企業化。手を挙げた社員は、仮に失敗しても本体に戻れる。挑戦したい社員のリスクを軽減する仕組みだ。

そしてこれは、他の社員のキャリアパスも広げる。

「普通の会社では、キャリアはピラミッド型で、上に行くほど狭き門に見えるでしょ。自社では、逆ピラミッド型を目指してます。経営幹部を目指すも良し、グループ会社を率いるもよし。そのグループ会社がデザイン会社であれば、デザインに興味がある社員が、デザイナーに転向する選択肢もできます」

採用難の今だからこそ、企業としては優秀な社員に長く働いて欲しい。そのための多様なキャリアパスを作ることは有益だ。

自分の「正解」が天井になる前に──経営権の継承

もう一つ、沼崎さんが踏み込んだのが、経営権を仲間に渡すという決断だ。自ら育ててきたユーゴーの舵を、5人の社員に託した。理由は明快。社員の力を最大限に解き放ちたかったからだ。

M&Aした会社の経営を任せた社員が、見事に軌道に乗せてみせた。その姿を見て、「彼にもっと大きな数字の会社経営を任せてみたい。できれば、提供可能な最大規模の会社、つまり自社だ。自分が社長で居続ければ、彼に次の成長機会は渡せそうにない。それはもったいない」と直感した。

より大きな器で経営を経験してもらえば、彼はさらに伸びるはずだ――そう考えた。彼だけではない。現場には次の挑戦者が何人も育っている。彼らに機会を渡したかった。

自分自身の判断への危機感もあった。ロードサイドへの出店、狙うエリア……クリーニング店経営の成功パターンが身体に染み込むほど、発想に蓋がかかる。社長の正解が会社の天井になると感じた。老害になる前に退く。社員が仕事は楽しいと思える、この会社を100年先にも残したかった。

そのために、舵を取るのは自分ではない方がいいかもしれない。会長として残る道もあったが、後進の“目の上のたんこぶ”になるくらいなら退くべきだと判断し、ユーゴーの経営にはノータッチを貫くことにした。

さらに先の景色も見据える。経営権を託した社員達には、いずれMBOして株を持ってもらい、次の世代にも同じように渡していく。そうやって継承の循環をつくりたいのだ。

「成長する機会と仕組みが、いつも用意されている箱でありたい」

それこそが、従業員のやりがいを生み続ける源だと確信している。

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