人に向き合ったら売上が伸びたーー村田農園・人材育成の勝ち筋

茨城いちご 村田農園
DOITER

代表取締役社長 村田 和寿 さん


株式会社村田農園

海外スタッフとの信頼が、現場を変えた

では、その転機はどこから始まったのか。きっかけは、ある海外スタッフとの出会いだ。

「最初は、距離を置いて見ていたんです」

ハウスの端で、村田さんは小さく笑った。若い頃、海外スタッフに任せて失敗した経験があり、人に任せることに慎重だった。そこへ、バリ出身の海外スタッフが来る。その人は村田さんの期待に応えようと、仕事を早く覚えるために朝早くから仕事をし、わからないことは積極的に質問してくれた。

誠実に頑張る彼の背中を見て、村田さんは感謝した。同時に、“作業者”と見ていた海外スタッフが、可能性を無限に持った“人材”であることに気づいた。仕事のやり方を提案してくれる、仕事を先読みして準備してくれる。何より、村田農園に対して愛情を持って仕事をしてくれているのが伝わった。

何かしたい気持ちに駆られるまま、誕生日にはお祝いをし、休日にはみんなで遠足に出かけた。 ——すると不思議だ。翌日から彼の背中が、さらにまっすぐになる。

「ありがとうございます。次は友人も紹介していいですか?」

1年後に、彼はバリから友人を呼び寄せた。気づけば、同じ志を持つ仲間が連鎖のようにつながっていった。信頼の循環が生まれて以降、彼らに任せる業務範囲は広がっていった。

村田農園では業務の再設計が進む。誠実な海外スタッフ達が栽培業務を担うことで、村田さん自身の時間は攻めの業務に振り向けられた。選果基準の見直し、新商品開発、取引先への新たな提案などに時間を使った結果、苺の品質が安定し、販路は拡大し、売上も上がった。

思いやりを前提にした関係づくりが、現場の主体性と学習速度を高め、経営の余裕を生んだのだ。この経営の好転の始まりは、村田さん自身がスタッフに対する接し方を変えたという、シンプルだが揺るぎない事実だった。

自分の子どもだったら?——人に向き合う基準

信頼の循環は、やがて村田さん自身の、人に向き合う基準を明確にしていく。今、村田さんが大切にしている判断基準は——自分の子どもだったらどう接するか。

「海外に送り出す親の気持ちで考えるんです。お金を稼ぐだけじゃなく、人として成長して帰って来てほしい。だから、間違ったことは愛情を持って叱ります」

村田農園では20代前半の若者たちが多く働いている。本来なら30代の成熟した人材の方が教育コストはかからない。それでも若者を招く理由は明快だ。

 「若いうちに来て、学んで、人として成長すれば、その後の彼らの人生にとってプラスになるはずだ。」

村田さんは、海外スタッフが村田農園で働く時間を、人として成長するための期間にしてほしいと考えている。

人への愛情が、品質と売上を押し上げる

育成方針は、「従業員に村田農園で良い思いをしてほしい」。その実現のために、社員の成長を促す仕組みや声かけをしている。

指示待ちではなく、自分で判断できる人を育てる。このために、現場では1日に3度ミーティングを行い、どうすれば良いかを自分で考えることを求める。海外スタッフ達は、「こうしようと思いますが、良いですか?」という聞き方をしている。小さな仮説と承認を積み重ねることで、各自がその場の最適解を選べるようになるのだ。

さらに、お客様が農園を訪れた時は、大きな声で目を見て挨拶をする。当たり前のことだが、その積み重ねが顧客や取引先との信頼を育む。

アルバイトの高校生には「自分のファンを作りなさい。その方法は任せるから」と伝えた。与えられた作業をこなすだけでなく、お客様との会話や気配りを、自分の言葉で工夫するうちに、彼女は常連の心をつかみ、退職の日にはお得意様から花束が贈られた。仕事の手応えが具体的な形で返ってくる経験は、本人の自信を育て、現場全体の空気を明るくした。

こうした育成が根づくと、現場は自然と、徹底して丁寧になる。人を大切にするマインドが、苺の扱いにも、接客の所作にも滲み出る。細部の積み重ねは品質に直結し、同時にお客様の体験価値を押し上げる。つまり村田農園での仕事は、誰がやっても同じではない。誰がやるかで変わる。その、誰かを育てる仕組みこそが、苺を美味しくし、ブランドを強くする源泉になっている。

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