パキスタンと日本の架け橋へーーー塗装業界の人材不足を解消するための事業を創る

株式会社菊正塗装店 鈴木大介

前編【自分で考える力を地方に──元バックパッカーが挑む塗装業の再生】

100年企業を、元バックパッカー社長が2倍成長させた──。紙文化の現場にDXを持ち込み、地方に“自分で考える力”を根付かせようと奮闘する、壮大な挑戦の物語。 → 鈴木大介さんの前編はこちらから

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代表取締役 鈴木大介 さん


株式会社菊正塗装店

日本の塗装業の担い手不足

想いの原点には、日本の塗装業界が直面している深刻な人手不足がある。

実際、業界全体では55歳以上の職人が約33〜34%を占め、29歳以下の若年層は10%台にとどまる。技術継承の危機は目前に迫っている。

ある日、下請けの塗装会社の社長から「若い人が本当に入ってこないんです」と嘆かれたことがあった。鈴木さんは「このままでは現場が回らなくなる」と強く実感したという。

農業や介護業界ではすでに技能実習生の受け入れが一般化しているが、塗装業界はその流れに乗り切れていない。だからこそ、鈴木さんはパキスタンとの橋渡し役として、自分が役に立てると思った。

なぜパキスタンなのか

「パキスタンの人って、裏表がないんですよ。直球で、余計な駆け引きとかもなくて。それがすごく楽で、好きなんです」

鈴木さんは笑顔で語る。若い頃にバックパッカーとして訪れたパキスタンの地で、人々のまっすぐな人柄に惚れ込んだ。

古着屋時代には、パキスタン製の絨毯を仕入れて販売するなど、すでに商社的な感覚でこの国との関わりを築いていた。今も、会社の床にはパキスタンの絨毯が敷かれている。

「菊正塗装店に入社した当初から、いつかパキスタン人ともう一度ビジネスをする未来を意識していました」

パキスタン人の現状を変えたい

日本の塗装業界の人手不足を解消したい想いと同時に、鈴木さんは、パキスタンの現状も変えたいと考えている。

パキスタンには、建設作業員などとして、近隣国のドバイやサウジアラビアへ出稼ぎに行く人が多く、出稼ぎ労働は国の重要な外貨収入源となっている。

国中には出稼ぎ希望者を訓練する施設が点在しており、労働力輸出に国家規模で取り組んでいる現実がある。だが、その環境は過酷だ。現地ではパタールワールドと皮肉られるような、低賃金かつ劣悪な労働環境が広がっている。実際、出稼ぎの定番ルートであるドバイで働いた場合、パキスタン人の給与は、日本の半分程度だ。

「彼らには夢がある。でも、それを正当に支える仕組みがない。だから、日本でそれを実現できないかと、本気で考えてるんです」

鈴木さんの言葉には、かつて世界を放浪し、異国の人々と寝食を共にした経験がにじむ。パキスタンの青年たちの瞳に映る夢と現実のギャップを、彼は肌で感じているのだ。

行動の熱量

パキスタンと日本の架け橋になりたい。その想いを抱いた鈴木さんは、持ち前の行動力を発揮して、次々とチャレンジを重ねた。

「この仕組みがあれば、協力会社に優秀な塗装職人を紹介できる。そう思って、パキスタン人材の説明会をやってみたんです」

菊正塗装店は、自分達で塗装作業をしない。大手ゼネコンなどから依頼された、企業向けの塗装の仕事を、塗装の実作業をする複数の会社に発注し、プロジェクトの進捗管理をすることが仕事である。

そのため、パキスタン人技能実習生の派遣事業をするとなれば、塗装職人を抱える協力会社のニーズがなければ成り立たない。

塗装会社の反応は想像以上だった。前のめりで話を聞いてくれる社長達。みんな職人の採用に困っていた。その熱はメディアにも伝播し、建設未来新聞にも取り上げられた。鈴木さんの行動力がもたらした結果である。

「ニーズは確実にある」

更なるパキスタンの情報を得るため、鈴木さんは、パキスタン大使館に直接連絡をとった。大使館から「ぜひ来てくれ」との返答を得ると、すぐに大使館に向かった。

大使館は、パキスタンの人材送り出し機関や、群馬県でビジネスを展開するパキスタン人経営者らを紹介してくれた。まだ事業を始めてもいない企業に対して、この好待遇には理由があった。

日本とパキスタンは2019年に二国間協定が締結されたものの、コロナ禍で停滞し、制度としての実績が積み上がっていない現状がある。中国など他の国の技能実習生の派遣は増えていく中で、パキスタンに目を向ける日本人は少なく、国内でも派遣事業を実施している会社は2社だけだという。そこに飛び込んだ鈴木さんを、大使館は歓迎してくれたのだ。

鈴木さんはこのチャンスを逃さず、紹介先と面会を重ねた。更に、自らもパキスタンの友人に連絡し、見学先の学校をピックアップしてもらう。現地に出向いて、学校見学を重ね、パキスタン人の就労環境ニーズの解像度を上げていった。

海外との架け橋を目指して

「若い頃に世界を旅して、いろんな国の人と接してきたから、国ごとの気質がなんとなくわかるんです。パキスタン人は勤勉で責任感が強く、チームワークもある。塗装の仕事に向いてると思うんですよ」

異国の地で出会った青年たちが、汗を流しながら建設現場で働く姿を思い出す。額に光る汗、仲間と笑い合う表情。鈴木さんはそんなシーンを語りながら、「日本でなら、彼らがもっと輝ける」と確信を持っている。

日本社会は今、少子高齢化という大きな転換期にある。労働力不足を補う手段として、海外人材の活用は不可避となるだろう。

だが、ただの労働力ではなく、文化や価値観の違いを尊重し合える関係性こそが重要だ。鈴木さんの描く未来は、その土台の上にある。

人は、多彩な強みを活かして、得意なことを活かして働く。これができる環境を最大限まで整えることが、鈴木さんがやりたいことだ。

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