異動や配置転換のあと、昨日まで活躍していた人が急に元気をなくす――そんな光景に、私は何度も出会ってきました。「最近やる気がないのでは」と片づけたくなるときこそ、立ち止まるべき。多くの場合、それは意欲の欠如ではなく、特性と役割のミスマッチが起きているからです。
今日は、仲山進也さん著の『「組織のネコ」という働き方』を手がかりに、現場で使える工夫をご紹介します。結論から言えば、タイプの違いを理解し、配置と会話を少し変えるだけで、自走人材を増やすことができます。
イヌ型とネコ型――優劣ではなく“生態”の違い
本書は、人の働き方を「イヌ型」「ネコ型」(その進化系として、トラ、ライオン)に例えています。ここではイヌとネコに絞ってお話しします。
- イヌ型:会社方針や指示を忠実に守り、決めた型の中で力を発揮するのが得意
- ネコ型:自分の問題意識や興味を起点に、時に既存の枠を越えて動くのが得意
どちらが良い・悪いではなく、生態が違う。だからこそ、強みが活きる場の設計が要になります。著者の仲山さんいわく、イヌとネコは社内におおよそ半々ずつ存在するそうです。しかし、ネコがネコらしく働ける環境は少なく、隠れネコとして、イヌに混じって生息しているそう。これが息苦しさの原因。
ミスマッチが招く、元気の喪失
善かれと思って与えた環境が、タイプによっては逆効果になることがあります。たとえばネコ型の人を、ルールと正確性が最重要なイヌ型の現場に置くと、好奇心や仮説構築力が眠り、急速に意欲がしぼみます。中小規模の組織では、一人のパフォーマンスが全体に直結します。適材適所は、そのまま事業の推進力なのです。
目的×強みが再起動スイッチ
一つ事例を紹介しましょう。企画立案と巻き込みが強みの佐藤さん(仮名)は、異動でルーティン中心の部署へ。
「考える余白がない。指示通りにこなす毎日がつらい」と、みるみる元気を失いました。
上司は再び企画部へ戻すだけでなく、初日のミーティングで、業務の目的を丁寧に語りました。市場の未解決課題、誰の何をどう良くしたいのか――そしてこう続けました。
「あなたが仕事でやりたいことは何?この部署の仕事と合致するところはない?」
佐藤さんが自らのやりたいことと、会社の仕事が重なる部分を発見した瞬間、歯車が噛み合います。1週間後には自らの意思で、見込み客10社への仮説ヒアリングをこなしたのです。数字はまだ小さくても、次の一手を自分で出せる状態が整いました。
ネコが活きると、改善は“自走”する
ネコ型の好奇心が起点となり、現場で仮説→小実験→学び共有のループが回り始めます。イヌ型は既存の型を磨き、猫型は余白で試す。両者が補完し合うと、組織は昨日より少し賢い状態を積み上げ続けられます。
ネコ型には小さな自由と自分の理由を渡す。これだけで、自律的に動ける人材が増え、リーダーは細かな指示役から方向を示す人・環境を整える人へと役割をスライドできます。
今日からできる、ネコを活かす三つの実践
ネコ型人材を活かすためのポイントをまとめます。さらにコツはあるのですが、興味のある方は是非本をご一読されることをおすすめします。
- 目的を最初に語る
会議やキックオフの冒頭で「誰の何を、どう良くするのか」を一度だけ明確に共有します。意思決定が速くなります。 - “1週間の小実験”を公式化する
伝えるのは目的と制約のみ。手段は任せます。評価は短期売上だけでなく、学びを含めて行います。 - 学習レビューで称える
週次などで“わかったこと”と“次の一手”を発表。結果の良否だけでなく、洞察と次の仮説を評価項目に加えます。
あなたの会社に、“猫のまま輝ける席”は何席ありますか
『「組織のネコ」という働き方』は、理屈を増やす本ではなく、配置と会話を変えるための実用書だと感じています。まずは一席。猫が全力で走れる場所を用意してみませんか。そこから、組織の改善は静かに、しかし確実に自走し始めます。私も、明日の会議で目的から語ることを徹底します。あなたの現場でも、きっと火がつきます。
